10-06

呼び名

 

 アメリカでは年齢や肩書きに関係なく、普通はファーストネームで呼び合う。これは広く知られている。

 ところで私の名前はTsutomu Akama。日本人にとってこのファーストネームは別に驚くに当たらないのだが、日本人以外の人たちにとってはかなり難解なようで、まともに読んでもらえたためしがない。英語には「つ」という発音がないようなのだ。中国語にもないらしい。いつも自己紹介で困るので、アメリカに来たばかりの頃は構わないからラストネームで呼んで下さいということにした。日本人以外の人たちにとってはどちらにしても馴染みがない名前である。従ってこれはファーストネームっぽいとかラストネームっぽいといった感覚がないはずなので、Akamaと呼べと言われれば、Tsutomuよりずっと簡単だし、多くの人はそれほど抵抗なく呼んでくれた。人気TVドラマ、ERの主人公のカーターもジョン カーターなのにいつもカーターと呼ばれているし、そういう場合もあってもいいのではないかと考えたのだ。ただしこの例を引き合いに出してもあまり納得してはもらえなかったけれど。

 ともかく1年後、会社の中で私は完全にAkamaとして認識されるようになり、私より後から入社した人たちの中にはそれがファーストネームだと思っている人もかなりいた。しかし中には実はラストネームと知ると抵抗を感じて、Mr. Dr.をつけずにはいられない人もいた。あるいは抵抗はあるけれど、ファーストネームはどう読むかわからないのでしょうがないというケースもあったようだ。あるいは無理やり何とかしてファーストネームで呼んでくれた方もいる。私の印象では大体2-3割がラストネームの呼び捨てに相当な違和感を覚えるといったところだろうか。

 ラストネームで呼ぶことがuncomfortableな人も結構いることを実感したので、会社を移った機会に、やはりここはアメリカ、今度はファーストネームを試してみようと考えた。アメリカでは、自分をどう呼んでもらうかは自分で決めるのである。例えば今日から自分はアレキサンダーになるとかエリザベスになるとかいったことも可能である。外国からの移民で、元の名前が英語圏の人々にとって発音しにくい場合、呼びやすいニックネーム(イングリッシュネーム)をつける人はたくさんいる。アメリカで暮らすツトムさんたちの多くがTomを使うことも知っている。しかし私自身は、いくら呼びやすいからと言っても西洋系のニックネームには非常に抵抗があったので、難しいことはわかっていたけれど、とりあえずオリジナルのファーストネームをそのまま試してみることにしたのである。本人の意向は尊重されるのでみんな何とかして呼んでくれるのだが、こちらが申しわけなくなるほど本当に大変そうである。中には呼ぶのを避けてどうしてもという場合にはDr. Akamaでかわしてしまう人もやはりいる。そしてメールや書類では、なぜかTsutomoと誤記されることが多い。どうもツトムという音からはTsutomoというスペルがイメージされるようだ。

はっきり言って覚えにくい名前、呼びにくい名前というのは、コミュニケーションを構築する上でかなり損だと思う。アメリカでは個人は名前で呼ぶのが基本である。Hi Tsutomu, how are you? といった形で挨拶や会話が始まるので、相手の名前がうろ覚えだったり、発音しにくかったりすると単なる挨拶さえしてもらいにくくなる。というかこちらはただでさえ軽い会話が苦手なのに、難しい名前のためにさらなる努力が必要になるのだ。よって教訓。これからは日本人といえども外国人からも読まれやすく呼ばれやすい名前をつけるべし。特に「つ」だけは避けたほうがよい。似ているようでも「ち」はだいじょうぶだ。

 ところでファーストネーム以外に単にイニシャルで呼ばれる人も時々いる。また非公式な職場のメモや電子メールでは、差出人として自分のイニシャルのみを記す場合もある。ミドルネームを持つ人が多いので、通常3文字のアルファベットになり、かなりの人数の集団であってもイニシャルだけで個人を特定できる場合が多い。例えば同じ部署内で書類のコピーを配る場合にも、差出人と受取人をTA AB, CDE, FGH, IJKといった具合に記せば、誰からの書類で誰と誰が同じものを受け取っているかが簡潔にわかってなかなか便利な方法だ。

 

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