シリコンバレー春夏秋冬

Bioテクノロジージャーナル 2005年1,2月号

 

バイオ時代のメディシナルケミストリー

 

 みなさんこんにちは。本号よりシリコンバレー発のショートコラムを連載することになりました。スタンフォード大学医学部でポスドクをされている小柳智義さんと、Palo Altoのバイオベンチャーでメディシナルケミストとして働いている私、赤間が交代で、その時々の話題をピックアップしつつ執筆していく予定です。シリコンバレーに四季はないと言われることもありますが、それなりに季節の変化は感じられるものです。まあそれはともかく、日本の四季のように変化に富んだ話題をお届けできればと思っています。

 バイオ、バイオと盛んに叫ばれる昨今ですが、言うまでもなくその領域の大部分を占めるのは医薬品に関する研究やビジネスです。特にバイオ医薬品と呼ばれる組み換えタンパク製剤や抗体医薬などが中心選手といえるでしょう。しかし医薬品といえば、その大部分を占めるのは実は口から飲める低分子化合物です。バイオ医薬が主にGenentech社やAmgen社といったいわゆるバイオテク企業で開発されてきたのに対し、低分子医薬は昔から大手の製薬会社で開発されてきました。その低分子医薬研究の最上流に位置するのがメディシナルケミストリーというわけですが、低分子専門に扱ってきたメディシナルケミストリーと、上記のバイオ医薬との間に何か接点はないものだろうかと考えていたところ、いくつかの記事や論文に遭遇しました。

ひとつはタンパク製剤を化学的に全合成してしまおうという試み1です。最初のターゲットになったのはエリスロポエチンで、アミノ酸配列部分は従来のペプチド合成で行い、活性に重要とされる糖鎖のかわりに分子量の決まったポリエチレングリコール様の側鎖を化学的に導入したもので、低分子で行われてきたような構造活性相関研究の結果、血中安定性が向上し、in vivoでの作用が増強された人工タンパク質が得られたというもの。完全な化学合成なので純度も高く、再現性もばっちりとのことです。これはSouth San Franciscoという町のGryphon Therapeutics社というベンチャーで開発されています。

もうひとつは化学合成ワクチン2です。このワクチンはHaemophilus influenzae Type bというグラム陰性の細菌に対するもので、構造的には糖鎖とキャリアタンパクの複合体ですが、そのうちの糖鎖部分が化学合成されています。この研究はカナダとキューバにまたがる産学協同によるものですが、初の部分化学合成ワクチンとして、2003年にキューバで発売されるに至りました。

これらの事例から読み取れるのは、メディシナルケミストリーの守備範囲が従来と比べて大幅に広がってきているということです。これまでメディシナルケミストリーといえば低分子化合物を扱うものと決まっていましたが、種々の合成技術とそれを支える周辺技術の進歩により、これからは低分子に限らず、タンパク質やワクチンといった高分子、すなわちこれまで対象とされてこなかったタイプの化合物も対象になりうるということです。これらの化合物が化学合成された場合、細胞培養に由来する不均一性やコンタミの心配がなく、常に同じものが高品質で得られ、スケールアップにより生産コストも低下するといったことが期待されます。さらに重要なことは、系統的な構造最適化が可能になるということでしょう。このあたり、まさにバイオ時代のメディシナルケミストリーとして、ひとつの方向性を示唆していると思います。

以前Bioベンチャー誌上で何度かご紹介しているJapan Bio Community (JBC; www.j-bio.org) では、20049月に本稿と同じタイトルでのフォーラムを行いました。UCSFおよびSunesis Pharmaceuticalsでそれぞれケミストとして活躍されている藤井直明さんと田中裕子さん、それに私の3名で、メディシナルケミストリーに関する最近の話題を中心に紹介しました。JBCではe-メールによる活動案内もしていますので、興味を持たれた方は上記サイトからご登録ください。

 

References

(1)   Kochendoerfer, et al., Science  2003, 299, 884.

(2)   Verez-Bencomo, et al., Science  2004, 305, 522.

 

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