10-06

留職

 

海外留学に意義を感じる方は多いだろう。日本では得られない本場の技術を学ぶ、外国語を学ぶ、見聞を広める、人脈を広げる、羽を伸ばす、箔をつける、等々目的はいろいろあるだろうが、いずれにせよ限られた期間の滞在という前提がある。従って現地に深く溶け込むということについては、敢えてこれを目的としていない限りあまり重要な要素とは見なされないような気がする。留学ではなく、海外に留まって働くという意味で「留職」というのはどうだろう。今さら終身雇用にこだわる人は少ないだろうが、働くということを考えれば、生涯とは言わないまでもある程度まとまった年数を考える。そうするとその土地に対する気持の持ち方も違ってくるような気がする。外国を単に外国として片付けず、より深く理解しようとする。と言うよりも、理解せざるを得なくなる。前章で書いたような理由からも「留職」希望者が増えればいいと思うのだが、留学と違って問題なのは、「留職」には一般的な方法論がないことである。そこでアメリカを前提にどういった方法があるか考えてみたい。

 

あなたが高校生以下の場合、外国の大学に入学すれば卒業後そのまま外国で働くことが可能だろう。最初は学生ビザ、就職には就労用のビザが必要だが、大学で4年以上過ごしていれば問題ないはずだ。本人の強い意志に加えて親の同意や経済的援助、とりわけ初期の外国語能力が求められるだろうが、若さを武器にがんばってもらいたい。

現在大学生なら、外国の大学院を目指すことができる。中国や韓国、インド等の多くの学生が取る方法だ。アメリカの大学院生は、ティーチングアシスタントシステムによって授業料や最低限の生活費をまかなうことができるそうだ。もちろんその後現地で就職するチャンスは大いにある。

現在日本にいる大学院生の方法としては外国の大学院に入り直すか、または日本で博士号まで取得した後、アメリカの大学にポスドクとして行く。教授から給料をもらうプロのポスドクである。その後就職先を探す。またアメリカの企業のいくつかはインターンまたはポスドクを受け入れる場合がある。インターンの場合は給料がない代わりにビザなしでも可能だが、その場合最長でも90日しかできない。その間の働きぶりによっては、受け入れ先企業がパーマネントポジションとビザサポートをオファーしてくれないとも限らないが、可能性は低い。企業でのポスドクはれっきとした就職なので、通常はH1-Bビザをサポートしてもらうことになる。もちろん学位を取得していることが条件である。実際シリコンバレーの企業に日本から応募して、ポスドクとして働いている方もいる。取っ掛かりはポスドクでも、認められればサイエンティストへのプロモーションもあり得るし、一度H1-Bを手にしてしまえばその後転職も可能である。雇用を通じてグリーンカード取得の可能性も出てくる。様々な展開が可能である。大学でポスドクをする場合も、ボスから給料を出してもらうならH1-Bビザを得ることが可能だ。

またアメリカの大学または大学院を卒業した場合、その後1年間有効のプラクティカルトレーニングビザというものを取得して、企業で働くことができる。その間に改めてH1-Bをサポートしてもらうという手もある。ひとつ注意しなければならないのは、H1-Bの場合、学生時代の専攻と仕事の専門性が一致している必要があるということだ。

 

既に社会に出ている人の方法としては上記同様アメリカの大学院に入り直すか、まずプロのポスドクとして行く選択肢がひとつ。前記同様ボスから給料をもらうポスドクとして勝負するのである。もっともこれは経済的なデメリットが大きい場合が多いだろう。そこでポスドクではなく、大学職員であるresearch associate(助手または講師相当)等のポジションを目指すのがいいかも知れないが、いきなりはやはり難しいだろう。もちろんポスドクからでも企業への転進も含めていろいろなチャンスはある。

その他に実例として聞くのは、大学留学中にラボのボスがベンチャーを起業するか、あるいは既にベンチャーの創始者で、その会社に誘われて参加するケースである。ただしそのボスが将来新たにベンチャーを起業するかどうか、留学前から知ることはかなり難しいだろう。

次に考えられるのは、外資系企業の日本支社等に入って、その後本拠地へ移動する作戦だ。どれくらいの確率で希望が通るのかはわからないが。同じ方法は海外に拠点を持つ日本企業でも可能だが、海外に出るという目的に照らした場合これらが確実性に欠けるのは明らかだ。

 最も困難かも知れないが最も確実なのは、現地(シリコンバレー)企業のオープンポジションに直接応募してみることだ。一見無謀にも思えるが、前述のように何らかのコネがあれば可能性がないとは言い切れない。例えばシリコンバレーならいくつもの日本人ネットワークがある。そこで知り合いを増やせば、さらに彼らの知り合いが希望の会社にいる場合もあるかも知れない。現在あまり多くはないが、景気のいい会社なら採用となれば例え海外からでも引越し費用を負担してくれるし、エグゼクティブクラスなら持ち家の頭金を提供する場合さえあるという。この場合の基本となるのは、やる気と競争力のあるレジュメ、すなわちそれまでの実績ということになる。既にある程度の企業経験を有し、まとまったパブリケーションで実績を示せる方にお勧めである。

 

職と言っても、最終的には必ずしも会社への就職にこだわる必要はない。ひとたびグリーンカードさえ取れれば好きなことができるのだ。アメリカで会社を興すのは日本でするよりも簡単だという。自分のビジネスを持つことだって可能だ。考え方とアイデア次第で、やり方はいろいろあるということである。

いずれにしても一大決心であり、そう簡単に踏み切れるものではないのは確かだ。失うものもあるかも知れない。しかし何も失わずに新しいものを得るのは難しい。そして飛び出してみれば何とかなる部分もあるし、飛び出してみて初めて得られる貴重なものも多いと思うからこそ、こうして書いているのである。「留職」、いかがですか?

 

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